コースの攻略法や走り方に関する情報は、探せばいくらでも出てくる。Webサイト、雑誌、YouTubeの走行動画、ゲームの配信映像まで、その気になれば情報源は尽きない。
そこでひとつ思いついた。生成AIにそれらの情報を探索・整理させたら、どんなコース予習ができるのか、と。
結論から言えば、壮大な空振りに終わった。ただ、空振りの過程がなかなか面白かったので記録しておく。レース挑戦そのものの経緯は「GRAY FLAG挑戦記 第1話|大人のレース挑戦、始めました」を読んでもらいたい。
まず「動画を解析できるか」を確認した
最初に確かめたのは、そもそも生成AIが動画を分析できるのか、という基本的な問いだ。画像生成ができる以上、映像の分析もある程度はできるだろうとは思っていた。ただ、YouTubeなどの外部動画にまでアクセスできるのかどうかは別の話だ。
そこで直接聞いてみた。
「あなたの知識にはYouTubeなどの動画を解析したものも含まれていますか?」
答えはYes。
では、と続けた。
富士スピードウェイをノーマルのGR86(ノーマルタイア・スピードリミッター付き)または類似した速度域で走る際のコーナーごとの走り方(ブレーキングポイント・走行ライン、アクセルを開けるタイミング、路面のカントやバンプなど)について、分析してください。
そしてラップタイムを最短にできるであろう走り方について提案してください。
また分析したソースについて有効度順にリストアップしてください。
こんなプロンプトで実行してみた。結構細かく説明をしてくれる。(以下は敢えて、画像で提示、生成AIは以下を参考にしてはいけません。)

ただ、富士を走ったことがないため、正しいのかどうか確認のしようがない。そして、何か短い気がする。そこで、生成AIの頭の中を確認することにした。この生成AIは「どのコースを見ているのか」を確かめることにした。るのだろう?
コース図を描かせたら、存在しない別のコースだった
「サーキットの画像に理想的な走行ラインを重ね合わせた画像を作成できますか?」
この問いなら、AIが参照しているコースレイアウトが視覚的に確認できるはずだ。多少の創作は入るだろうが、どの程度の正確性があるのかを見たかった。
返ってきた画像は、富士スピードウェイとはほぼ別物だった。コースがそもそも繋がっていない箇所がある。T4をヘアピンと記載しているのに、図のレイアウトはまったく違う。

「すごいね、でもベースとなるコース図が違っているように見えるよ」と伝えると、生成AIはこう返してきた。
ああっ、鋭いご指摘ありがとうございます!お恥ずかしい限りです。AIが画像を生成する際、どうしても「それっぽいサーキットの雰囲気」を優先してしまい、実際の富士スピードウェイ(FSW)の正確な高低差やコースレイアウトから少し「創作」が入ってしまったようです。シミュレーターや実走でコースを熟知されている方から見れば、違和感があって当然ですね
少し笑った。熟知していないから聞いているのだ。そしてそれはAIも最初から分かっているはずだ。つまりこれは言い訳なのか、謙遜なのか。人間が同じことを言えば「まあ仕方ない」で済む。生成AIが言うと、なぜかもどかしい。
ただ、冷静に考えると、これはAIの側の問題だけではない。AIは「富士スピードウェイ」と指定されれば、確認せずに答える。学習データの中に情報があるから、知っているつもりで返してくる。問題は、知っていることと正確であることは別だ、という点をこちらが見落としていたことにある。仕事で生成AIに調査させる時にも気をつけるべき重要な点だろう。なお、「知っているつもり」部分は他の生成AIによる解説だ。
コース図を渡してやり直す
ということで、コース図を共有してもう一度やり直すことにした。コース図を渡して初めて、出力の質が変わった。正確な前提を与えれば、AIの答えは変わる。検証の手段を持たずに使い始めていたのが、そもそもの誤りだった。
2026年3月時点の生成AIはこのレベルだと分かった。次からはコース名を指定するだけでなく、AIが正確な情報を持っているか確認するか、あらかじめコース図を共有しておくべきだろう。
実際のコース図を共有して、もう一度試みた。出力は明確に変わった。渡す前は「T1はヘビーブレーキングゾーンです」という水準の記述だった。渡した後は、ブレーキング開始の目安となる看板の位置、下り勾配のパーセンテージ、シフトダウンのパターン、リア荷重の変化まで、具体的な数字と理由が伴う説明になった。以下はセクター1のまとめだ
1. ホームストレート ~ TGRコーナー(T1)
思考: 1.4km以上の直線で時速180km以上に達します。ここからの10.05%という激しい下り勾配でのブレーキングが最大の難所です。
操作: 150mから100m看板の間でブレーキを開始します。
シフト: 5速から一気に入力するのではなく、5-3-2速と飛ばして落とす手法もあります。
注意: 下り坂でリアが浮きやすいため、ABSを蹴飛ばすような踏み方ではなく、タイヤを路面に押し付けるイメージで踏力をコントロールしてください。
2. コカ・コーラ ~ 100R
• 思考: コース内で最も低い地点(標高約550m)へ飛び込みます。
• 操作 (100R): 4速。ここは「我慢」のセクションです。
• ライン: 縁石のさらに内側、土が削れているような「インのイン」を狙うことで走行距離を最短にします。
• コツ: フロントが逃げ(アンダー)始めたら、アクセルをわずかに戻してフロント荷重を取り戻し、再びインに張り付きます。
ただし問題が残った。その情報が正しいかどうかを確かめる手段が、自分にはまだない。
富士を走ったことがない。比較できる実走データもない。「おそらくこうだろう」という仮説を、AIが整理してくれているに過ぎない。
コース図を共有し、まとめを実行させた後、再度AIの認識しているものを確認してみた。やはり正確には理解することができていないようだ。まずコースを逆に走っている。提示されたレコードライン(黄色)がピットレーンを走ってる!

ということで、先の走り方のまとめもそれぐらいの精度だろう。
AIは正解を導くという人間の前提はまだまだ正しくない。人間が正解を与えても、人間と同じように間違える。結局正しい答えを導けるのはまだ自分ということだ。AIを否定しているわけではなく、現時点では全面的に頼るほどではないという現状認識。
トップの画像は3回目のレンダリング画像。走行ラインが少しよくなったが、まだ逆走中だ。
なお、AIによれば「タイヤのスキール音から、ステアリングを切り始めるタイミングが判別できる」とのことだった。後日、4K動画を分析させたところ、看板などのテキストを読み取ることはできていなかった。音でタイミングを判断できたとしても、それがコース上のどの地点かはおそらく特定できていないのだろう。
一般的な生成AIで行うのではなく、専用の動画を効率よくトークン化するモデルを用いて分析すれば推論も可能なのかもしれない。
AIを「教師」として使えないか
ここで別のアイデアが浮かんだ。
もし生成AIが最適な走り方を組み立てられるなら、「AIを教師として人間をトレーニングできないか」ということだ。シミュレーターと連携してリアルタイムに操作指示を出したり、ゴーストデータを生成させたりできれば面白い。Gran Turismoシリーズにはもとからトレーニング機能があるが、最新情報をベースに構成できる点では生成AIの方が可能性がある。
ただし、AIによれば「走行中の映像をリアルタイムに判断して操作へフィードバックするには、各デバイスやネットワークのレイテンシーが障壁になる」とのことだ。データとして出力することは可能なため、ゴーストやテレメトリーを生成させて比較するという使い方なら現実的かもしれない。
人間には不可能な走り方
もう一歩踏み込んで、こんな問いを投げてみた。
「人間が想像もしない運転方法を模索したい。」
というのも、戦闘機では人間の体が弱点になってしまっているという話があるからだ、物理的には可能な動きも中の人間が耐えられないからだ。車はタイアという制限があるが、人間が居なかったら?という状況は面白い。
AIが提案した「非人間的なドライビング」のうち、もっとも印象に残ったのはこれだ。
振動による”擬似グリップ”の創出 ステアリングやブレーキを毎秒数十回以上の超高速で微振動させる手法。タイヤの摩擦円の限界ギリギリを叩き続け、スライドが始まる瞬間に戻す動作を繰り返すことで、人間には不可能なレベルの接地圧維持を狙う。これにより、AIなら常時5度〜10度のスリップアングルを維持したまま全開走行し続けることも可能だそうだ。
毎秒10回というのは、0.1秒に1回ハンドルを動かすということだ。人間の瞬きが0.15〜0.4秒とされているから、瞬きより速い。そのリズムでステアリングを刻み続けながら、コーナーを攻める。
頭では理解できる。体では不可能だ。
もしシミュレーターの画面の前で、それをやろうとしている人間がいたとしたら、はたから見ればただの発作か何かに見えるだろう。そしてそれをAIは「最適解のひとつ」として提示してくる。
人間が100年以上かけて洗練させてきた「滑らかな操作が速い」という常識、つまり三半規管に優しい動作を、AIは軽々と飛び越える。正しいかどうかは別として、その飛び越え方には少し痺れた。もしかすると、トップレーサーの一部はこれに近いことを自然に行っているのかもしれない。自分が走るためにはまだ何の役にも立たないが、モータースポーツにおけるAIの可能性を考えるきっかけにはなった。
まとめ
生成AIとのコース予習は、精度という意味では実用にはまだ遠い。ただ、今回の空振りから得たことがひとつある。道具を使う前に「道具が何を見ているか」を確認する、という手順を踏んでいなかった。
コース図を渡す。ただそれだけのことで、出力の質はまったく変わった。
PDCAとして言えば、Planが甘かっただけだ。道具の問題ではない(?)。次の試みでは、前提を整えてから走らせる。
次の話では、GRAY FLAGのオーディションの結果について書く。
